産業医の業務とは? 法令に基づく12の具体的な業務内容を徹底解説

従業員が50人を超える事業場では、産業医の選任が義務付けられています。
しかし「産業医の具体的な業務内容がわからない」「法規定が理解しづらく、どのように産業医を活用すればよいのか悩んでいる」と感じる人事担当者は多いのではないでしょうか。
本記事では、法規定に基づいて産業医の業務内容を解説するとともに、事業場での12の具体的な活用方法について紹介します。
産業医の業務を正しく理解し、従業員の健康増進や生産性向上に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
※2025年3月時点での情報です。
目次
- 産業医の役割とは?
- 【産業医の業務1】健康診断の実施とその結果に基づく措置
- 【産業医の業務2】長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
- 【産業医の業務3】ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
- 【産業医の業務4】作業環境管理
- 【産業医の業務5】作業管理
- 【産業医の業務6】上記以外の労働者の健康管理
- 【産業医の業務7】健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
- 【産業医の業務8】衛生教育
- 【産業医の業務9】労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
- 【産業医の業務10】月1回の職場巡視
- 【産業医の業務11】衛生委員会への参加
- 【産業医の業務12】長時間労働者に関する情報の把握
- 産業医の業務を具体的に理解し、従業員の健康増進と生産性向上につなげる


産業医の役割とは?
産業医とは、企業が主体となって職場での従業員の健康を守るために、従業員の健康管理や職場の安全衛生について助言指導や就業判断などを行う医師のことです。企業内で従業員の健康診断の事後措置や職場巡視を行い、労働環境の改善や健康増進活動を企業が推進する上で重要な役割を担っています。
こうした活動を通じて、産業医は企業の生産性向上と従業員の健康維持の両立に大きく貢献しています。
法や規則に基づく産業医の職務
産業医の職務は、法や規則に基づき、従業員の健康管理と安全な職場環境の維持を支援するために行われます。
産業医の業務は、労働安全衛生規則第14条第1項により以下の9つに分けられます。
産業医の職務(労働安全衛生規則第14条第1項) 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号) 1.健康診断の実施とその結果に基づく措置 2.長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置 3.ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置 4.作業環境の維持管理 5.作業管理 6.上記以外の労働者の健康管理 7.健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置 8.衛生教育 9.労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置 |
また上記のほかにも、産業医の職務は以下の規則や法にも規定が定められています。
10. 職場巡視 労働安全衛生規則第15条 11. 衛生委員会への参加 労働安全衛生法第18条 12. 長時間労働者に関する情報の把握 労働安全衛生規則第52条の2第3項 |
このように産業医の職務は法や規則がさまざまに規定されていますが、実際に産業医をどのように活用するかは具体的にイメージしづらいかもしれません。
そこで、法や規則に基づく産業医の具体的な業務について、活用方法も含めて順を追って説明していきます。
【産業医の業務1】健康診断の実施とその結果に基づく措置

健康診断は、単に実施するだけでなく、産業医の専門的知見を活かした事後措置が重要です。産業医の意見を踏まえて、従業員の健康状態に応じた就業上の配慮や生活習慣改善の指導を行い、必要に応じて働き方の調整を検討します。
「健康診断の実施とその結果に基づく措置」における産業医の具体的な活用方法は、以下になります。
- 健康診断結果の確認と就労可否の判断
- 健康上の課題がある従業員への受診勧奨と保健指導
- 企業への安全配慮義務に関する助言
- 従業員の働き方調整に関する専門的意見の提供
- 継続的な健康管理と就業上の配慮事項の記録
これらの措置を通じて、産業医は従業員の健康維持と企業の生産性向上に貢献しているのです。
従業員の健康リスクに対する早期対応は、従業員の健康を守り、将来的な長期欠勤の予防にもつながります。また、就業上の適切な配慮は、従業員の能力を最大限に発揮できる環境を整えることにもなります。
健康診断の事後措置とは
健康診断の事後措置とは、健康診断で異常が見つかった場合に、医師の意見を踏まえて企業が必要な就業措置を決定する手続きになります。事後措置には勤務時間の短縮や配置転換などが含まれ、従業員の健康状態に合わせた職場環境の整備が目的です。
事後措置は、労働安全衛生法に基づく義務であり、従業員の健康維持と安全な職場づくりに欠かせない重要な業務のひとつです。
【産業医の業務2】長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
長時間労働の従業員への面接指導は、過重労働による健康障害を防ぐための重要な取り組みです。一定基準以上の長時間労働を行った従業員の心身の状態を確認し、必要な対策を講じることで、健康維持と職場の安全を実現していきます。
長時間労働者の定義と面接対象
労働安全衛生法第66条の8に基づき、面接指導の対象となる従業員は次のとおりです。
- 月80時間超の時間外労働者:疲労が蓄積した者
- 月100時間超の時間外労働者:研究開発業務従事者
- 高度プロフェッショナル制度適用者で、週40時間超の健康管理時間がある者
企業は、上記に該当する従業員の心身の状態をアンケートなどで確認し、必要に応じて医師による面接指導を勧奨します。面接指導後、企業は医師の意見をもとに労働時間の短縮や配置転換、作業内容の変更などの措置を行い、従業員の健康維持と安全な職場環境の確保を行います。
【産業医の業務3】ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導 その結果に基づく措置
産業医は、ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員の希望者に対して面接指導を行い、従業員の健康維持と適切な就業環境の確保に重要な役割を果たしています。企業は、面談後の意見書をもとに従業員に適切な就業措置を講じる必要があります。
高ストレス者への面接指導における産業医の役割と具体的手順は次のとおりです。
- 面接指導:高ストレス者の従業員に対して、面接指導を実施し、従業員の心身状態を確認する
- 医学的知見からの助言:面接結果をもとに、企業が適切な就業措置をとれるよう医学的知見からの意見を提供する
- 報告書作成:面接指導の結果は報告書にまとめられ、企業に提出される
より詳しい情報については、厚生労働省が発行しているリーフレットやマニュアルをご参照いただけます。これらの資料では、具体的な手順や詳細が分かりやすく解説されているので、参考にしてください。
【参考】
「過重労働による健康障害を防ぐために」厚生労働省リーフレット p.5~9
「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」(労災疾病臨床研究事業費補助金研究「長時間労働者への医師による面接指導を効果的に実施するためのマニュアルの作成」(平成30年度から令和2年度)より)
オンラインによる面接指導
オンラインでの実施に関しては、労働安全衛生法の規定に基づき、留意事項が示されています。こちらも詳しい内容は以下のURLを参考にしてください。
【参考】
「オンラインによる医師の面接指導を実施するにあたっての留意事項」独立行政法人労働者健康安全機構
【産業医の業務4】作業環境管理
作業環境管理は、従業員の健康と安全を守り、労働災害を防止するために欠かせない活動です。
産業医は、医学的知見を提供し、健康リスクの評価や改善策の提案をします。これにより、労働災害の防止や作業効率の向上が図られ、長期的にみて企業の持続可能な発展につながります。
産業医の具体的な役割は以下の通りです。
- 作業環境中の有害因子の特定と評価:職場の温度・湿度・照明・騒音・振動・粉塵・有害物質などの物理的・化学的要因などを定期的に測定し、評価する
- 改善策の提案:有害物質の発生源対策、換気システムの改善、騒音・振動の低減、適切な照明の確保など、従業員の健康を守るための具体的な対策を提案する
作業環境管理は、従業員が安心して働ける職場づくりの基盤として重要な取り組みのひとつになります。
【産業医の業務5】作業管理
作業管理とは、労働環境を清潔で安全に保つために作業方法を工夫し、有害要因のばく露や作業負荷を軽減する取り組みを指します。産業医は、この作業管理の改善を指導し、作業効率の安全性の向上に貢献します。
具体的には、次のとおりです。
- 作業手順の見直し:作業手順や作業場所の配置を見直し、効率的かつ安全に業務を遂行できるよう改善する
- 保護具の使用指導:有害物質や危険な作業から従業員を守るために適切な保護具の使用を指導する
- 作業環境の汚染防止:作業環境が汚染されないように対策を提案する
- 定期的な視察と面談:現場視察や従業員との面談を通じて、作業環境や作業方法の問題点を把握し、具体的な改善策を指導する
産業医による作業管理は、従業員が健康で安全に働ける環境の維持につながり、生産性の向上に直結します。


【産業医の業務6】上記以外の労働者の健康管理
産業医は、特定の有害環境にばく露される従業員だけでなく、すべての従業員の健康管理を行い、企業が適切な対応をとるための指導を実施します。
「上記以外の労働者」とは、労働基準法第9条によると労働者とは職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者のことです。具体的には、以下のような事務作業従事者、臨時従業員、管理者なども当てはまります。
- 事務作業従事者:デスクワークを主とし、有害環境や物質に暴露されない従業員
- 臨時従業員:パートやアルバイトなど短期間の雇用契約で働く従業員。定期的な健康診断の義務が必ずしも適用されない場合がある
- 管理者:経営や管理に携わる役職者で、一般的な現場作業とは異なる業務を担う者
上記の従業員や管理者は、特定の有害環境や物質への曝露リスクが低いため、定期健康診断の義務対象外となる場合があります。
しかし、企業には上記従業員にも健康管理責任を担っています。産業医は、これらの従業員に対しても適切な健康管理指導が必要です(具体的な適用範囲や除外事項は企業ごとに異なる可能性があるので注意してください)。
従業員の健康は業務効率や職場環境に大きく影響するため、産業医はすべての従業員に対し、必要に応じて助言や指導を行います。職場全体の健康管理もまた生産性向上につながるのです。
【産業医の業務7】健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
企業は、従業員の健康維持と促進のために、健康教育・健康相談・健康保持増進措置を通じて、従業員の心身の健康を総合的に支援し、職場全体の健康レベル向上に貢献します。
これらの活動は、従業員の健康意識向上と自己管理能力の育成、職場環境の改善、そして企業の生産性向上につながる重要な役割を果たします。
企業が産業医と協力しながら行う健康保持増進策としては、以下の通りです。
- 健康教育:生活習慣病予防、メンタルヘルス、職業性疾病予防に関するセミナーの開催、健康に関するパンフレットの配布で、健康意識を高め、自己管理能力を育成する
- 健康相談:従業員の健康に関する悩みや不安に専門的アドバイスを提供する。産業医は各従業員の健康状態を評価し、必要に応じて職場環境の改善を提案する
- 健康保持増進:職場環境の改善提案、運動指導、栄養指導、ストレスチェック結果に基づく対策を実施する
上記活動を通じて、従業員一人ひとりの心身の健康を支援し、職場全体の健康レベルの向上につなげます。
【産業医の業務8】衛生教育
産業医は、労働衛生教育と健康教育の両面で重要な役割を担っています。
企業の責務である労働衛生教育では、法定または行政指導に基づく必要な教育内容を確認し、事業場に応じた計画的な教育の企画や実施をサポートします。また、労働者や管理監督者が負う「安全(健康)配慮義務」や「自己健康管理義務」についての教育や、企業が労働者の安全と健康を確保するための体制整備の支援も必要です。
一方、健康教育では、生活習慣病予防やメンタルヘルス、過重労働による健康障害防止に向けた啓発活動を行い、職場の健康づくりに寄与します。
このように産業医は、労働者が健康的に働ける環境を実現するための教育やサポートを通じ、企業の労働環境向上に不可欠な存在となっています。
【産業医の業務9】労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
産業医の業務内容には、従業員の健康障害の原因調査と再発防止のための助言指導も含まれます。
具体的には、発生した健康障害の原因や業務起因性を調査し、その結果に基づいて再発防止のための対策を立案します。一例を挙げると、労働環境の改善や作業方法の見直し、安全対策の強化などです。
これらの対策を企業が実行していくことで、従業員の健康維持と生産性向上につながります。
【産業医の業務10】月1回の職場巡視

産業医は毎月1回以上、職場を巡視し、作業環境の安全性や衛生状況を確認する役割を担っています。労働安全衛生規則第15条第1項により、巡視の際に有害の恐れがあると判断された場合には、即座に適切な改善措置を取ることが求められています。
巡視の主な目的は、労働者の健康障害を防ぐための環境改善です。ただし、それ以外にも産業医が職場の雰囲気やコミュニケーション状況、掲示物などから現在の取り組みを把握し、職場環境への理解を深める機会ともなります。
また、職場巡視の方法として、大規模事業所では年間計画に基づいて全職場を巡視し、小規模事業所では重量物の取扱いや化学物質などテーマを絞って確認すると効果的です。
巡視報告書には、改善すべき点に加えて良好事例も記載してもらい、各職場での優良事例の共有を促進することで、企業全体の安全衛生水準の向上に貢献できるでしょう。
【産業医の業務11】衛生委員会への参加
産業医は衛生委員会のメンバーとして、健康管理体制の見直しや職場環境の改善、働き方に関する審議に積極的に関与することが求められます。衛生委員会における産業医の主な役割と活用方法は以下のとおりです。
産業医の主な役割 | ・医学的視点からのアドバイス提供 ・従業員の健康管理に関する対策の提案 ・職場の健康課題の把握と改善策の提示 |
審議内容 | ・従業員の健康障害防止や健康の保持増進を図るための基本対策 ・ 労働災害(衛生関連)の原因究明と再発防止策の立案 ・衛生規定の策定 ・リスクアセスメントや作業環境測定の実施・対策 ・安全衛生計画(衛生関連のみ)の作成・実施・評価・改善 ・衛生教育実施計画の作成 健康診断・長時間労働・メンタルヘルス対策に関する立案 ・産業医からの勧告に基づく報告(講じた措置内容、講じない場合の理由を含む) |
他部門との連携 | ・管理・監督者との連携 ・衛生管理者・衛生推進者との協力 ・人事部門との情報共有 |
産業医の衛生委員会への参加は、事業場の状況や課題を深く理解し、実効性のある改善策を講じることが可能になります。また、産業医を効果的に活用することで、企業は従業員の健康維持と職場環境の改善を促進できるでしょう。
【産業医の業務12】長時間労働者に関する情報の把握
産業医は、長時間働く従業員に関する情報を把握し、健康悪化を防ぐための対応を行います。具体的には、以下のような活動を通じて、従業員の健康管理を実施します。
- 従業員の同意を得たうえで情報を収集
- 収集した医療情報を適切に管理し、人事や上司にわかりやすく説明
上記活動を通じて、長時間労働を行う従業員への健康リスクを軽減し、職場環境の改善を進めることが期待できます。産業医には、個人情報保護と健康管理のバランスをとりつつ、職場全体の生産性向上を目指すことが求められています。
産業医の業務を具体的に理解し、従業員の健康増進と生産性向上につなげる
労働安全衛生活動の目的と産業医の業務内容を正しく理解し、産業医と深くコミュニケーションを図ることで、企業の生産性向上と従業員の健康増進に役立ちます。産業医は法令遵守だけでなく、企業の持続的成長と従業員の健康維持に貢献する重要な存在です。
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