産業医が復職を認めない5つのケースとは?復職支援でやるべきことも解説
休職者が復職する際は、事前に主治医の診断と産業医による面談を実施します。主治医の判断と産業医の意見が異なり、どちらを参考にすべきか迷ったことがある方もいるでしょう。
今回は、産業医が復職を認めないケースや産業医と主治医の復職判断が異なる理由、どちらの意見を重視すべきかなどを解説します。復職をサポートするために事業者がやるべきことについても紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
- 産業医が復職を認めない場合もある
- 産業医が復職を認めない5つのケース
- 産業医と主治医の復職判断が異なる理由
- 復職判断時は産業医の意見の重要性が高い
- 産業医が復職を認めない場合はどうする?
- 復職支援のために事業者がやるべきこと
- 産業医の復職判断に関するよくある質問
- 産業医の意見を参考に慎重に復職を判断しよう
1.産業医が復職を認めない場合もある
休職者について主治医が復職可能と判断しても、産業医が復職を認めない場合もあります。
産業医は、休職者との面談で当該従業員の症状・精神状態・就業意欲・生活リズム・適応能力などを確認します。そして、主治医の診断書も参考に、復職に関する所見をまとめて意見書を作成するのが産業医の役割です。
症状や精神状態が回復していても、業務を遂行する上で懸念点があると判断された場合は、復職を認めない可能性もあるのです。
2.産業医が復職を認めない5つのケース
以下のようなケースでは、産業医が復職を認めない可能性が高いです。
- 健康状態や体力が回復していない
- 規則正しい生活を送れていない
- 復職したいという意欲がない
- 通勤に問題がある
- 職場環境が改善されていない
それぞれのケースについて解説します。
1.健康状態や体力が回復していない
休職の原因となった健康問題が改善していない場合、当然ながら復職は難しいでしょう。
また、業務を問題なくこなすためには、体力が十分に回復しているかも重要なポイントです。休職期間中は家で過ごすことが多く、体力や筋力が低下してしまう傾向にあります。体力が回復していない場合は、通勤やフルタイム勤務、体力が必要な業務は難しいと判断される可能性が高いです。
その場合は、時短勤務や業務内容の変更を検討する必要があります。
2.規則正しい生活を送れていない
規則正しい生活が送れていないまま復職すると、心身に大きな負担がかかってしまいます。
休職中は予定がなくなるため、昼夜が逆転したり起床時間が日によって大きく異なったりと、生活リズムが乱れやすいです。復職して健康的に働けるようにするためには、規則正しい生活リズムを取り戻す必要があるでしょう。
生活リズムを把握するためには、起床・睡眠時間や外出時間などを記録させ、提出してもらうことが有効だと考えられます。
3.復職したいという意欲がない
休職者に復職したいという意欲がない場合は、いくら健康状態が回復して職場環境が改善されていても、復職させることはできません。就業意欲のない休職者を無理やり復職させると、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
就業意欲の高さを判断する材料は、休職者へのヒアリング内容です。その際は、休職者が前向きに復職したいと思っているかを見極める必要があります。「早く復職しないと降格するのでは」「経済的に困窮するかもしれない」などの不安から、復職を焦っている場合も少なくありません。
就業意欲を適切に判断するためには、復職後も中長期的に状況を確認することが求められます。
4.通勤に問題がある
職場までの通勤に問題がある場合も、復職が難しいと判断されるケースが多いです。
特に、メンタルヘルス不調により休職していた方は、職場の近くに来た瞬間強い不安に襲われてしまう可能性があります。駅や交通機関の人混みによってパニック発作を起こすこともあるため、注意が必要です。「発作が起きるのでは」という不安から、より発作が起きてしまうこともあるでしょう。
復職前に通勤訓練を行ったり、電車の混雑ピーク時を避けられるよう出社時間を変更したりして対処することが必要です。
5.職場環境が改善されていない
休職の原因が職場環境にある場合、問題の根本的な原因を解決しなければ、復職は認められないでしょう。
職場環境が改善されていなければ、復職後に再び病気が再発してしまう可能性があります。新たな休職者が発生する可能性も否定できません。
労働時間の見直しを行ったり、休職者の希望を聞いて業務内容や部署を変更したりすることが大切です。
3.産業医と主治医の復職判断が異なる理由
産業医と主治医の復職判断が異なる可能性があるのは、両者が復職判断の際に重視するポイントや休職者への理解に違いがあるためです。
ここでは、主治医と産業医それぞれの意見の特徴について解説します。
主治医の意見の特徴
主治医の診断・意見には以下の特徴があります。
- 休職者の健康状態を把握している
- 日常生活を健康的に送れるかが重視される
主治医は、休職者を定期的に診察しているため、健康状態を正しく把握していることが多いです。
一方、職場環境や業務内容について理解しているわけではありません。目の前にいる患者の状態や治療経過、休職者への問診結果をもとに復職判断を行います。そのため、復職後にかかるストレスや休職前と同じ部署で問題ないかなどを見極められない可能性があるのです。
また、主治医は病気や怪我の治療を行うため、日常生活を健康的に送れるレベルまで回復しているかを重視して判断するのも特徴です。
特に、メンタルヘルス不調による休職の場合は、休職者が申告した内容を主な判断材料にすることとなります。
そのため、産業医から見ると業務に耐えられない状況であっても、「日常生活に問題はないため」「本人が復職を強く希望しているため」といった理由で、主治医が復職を許可する可能性もあります。
産業医の意見の特徴
一方、産業医の診断・意見の特徴は以下の通りです。
- 事業場の職場環境や業務内容を理解した上での意見である
- 業務を安全かつ安定的に遂行するために問題ないかが重視される
産業医は、事業者が選任した医師です。職場巡視や衛生委員会への出席など、日々の活動を通じて、職場環境や業務内容について深く理解しています。そのため、休職者の状態だけでなく、事業場の実態も考慮して休職判断を下すのがポイントです。
さらに、復職後の職場環境や業務内容を考慮して、「現状のままで復職してよいか」「どのような配慮をすれば復職できるか」なども判断します。
また、業務を問題なく遂行できるかを重視して判断するのも特徴です。日常生活を送る上では問題がなくても、所定の時間での勤務や復職前の業務は難しいと判断され、復職が認められないこともあります。
4.復職判断時は産業医の意見の重要性が高い
復職判断時は、主治医よりも産業医の意見の重要性が高いと言えます。
上記の通り、産業医は日常生活が送れるかどうかではなく、業務のストレスに耐えられるかどうかを重視して判断します。日常生活が送れるからといって、心身に負荷がかかる業務を遂行できるとは限りません。
厚生労働省が発表している「職場復帰支援の手引き」にも、以下のような記載があります。
ただし現状では、主治医による診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことにも留意すべきである。また、労働者や家族の希望が含まれている場合もある。そのため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応について判断し、意見を述べることが重要となる。 |
出典:厚生労働省「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
このように、復職判断においては、事業場の状況も踏まえて総合的に判断できる産業医の意見を尊重すべきと言えるでしょう。
主治医にも事業者の情報を開示する
主治医がより的確に判断できるよう、事業者側が主治医に情報を開示することも有効です。休職者本人への問診だけでは、職場環境や業務内容を適切に把握することは困難であるためです。
具体的には、以下のような情報を開示することが望ましいでしょう。
- 休職前の当該従業員の様子
- 休職者の過去と直近の様子の違い
- 休職前の労働時間や業務内容
- 休職前の業務負担
- ストレス要因として考えられる要素
- 事業者が把握している休職者の既往歴
- 休職や復職に関する制度
主治医と産業医の連携も重要
従業員の復職にあたっては、主治医と産業医を連携させることも重要です。両者を連携させ、総合的に復職判断を行えるようにしましょう。
主治医の診断書を産業医が参考にすることはあっても、両者が直接コミュニケーションをとるケースは少ないです。しかし、状況によっては、診断書だけでなく電話や書面などで連携することが求められます。特にメンタルヘルス不調による休職の場合は、両者が医学的な情報を交換して密に連携することで、万全な体制で復職をサポートできます。
連携させる際は、休職者本人にその旨を伝えて事前に承諾を得ましょう。休職者の健康情報は、重要な個人情報です。無断で連携させた場合、休職者が事業者や主治医に不信感を抱く可能性があります。メンタルヘルスが悪化してしまうリスクも否定できません。
5.産業医が復職を認めない場合はどうする?
産業医が復職を認めないからといって、必ずしも復職させられないわけではありません。最終的な判断を下すのは事業者です。また、産業医の意見に法的効力はありません。
とはいえ、事業者が独断で判断することにはリスクがあります。
ここでは、復職を判断する際に押さえておきたいポイントについて解説します。
復職の最終判断は事業者が行う
復職の判断は、最終的には事業者が行います。事業者は使用者として安全配慮義務を負い、人事権を行使できる存在であるためです。
事業者は、主治医や産業医の意見を参考に、就業規則で定めている復職要件を満たしているかをチェックして判断する必要があります。
復職要件を満たしていない場合でも、以下に該当する場合は、部署や業務内容などを変更した上で復職を検討してもよいでしょう。
- 3ヶ月程度様子を見れば完全に復職できる見込みがある
- 他部署や他の業務なら復帰でき、本人も了承している
産業医の意見に法的効力がないことを踏まえる
産業医の意見は法的効力を持ちません。そのため、産業医の意見に必ず従わなければならないというわけではありません。
ただし、産業医の意見を無視して復職許可を出した結果問題が発生した場合は、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
また、休職者が安全に復職するための職場環境の改善を怠った場合は、産業医から勧告を受ける場合があります。
産業の意見書に法的効力はないものの、休職者が健康かつ安定的に働けるようにするためには、産業医の意見を参考にすることが大切です。
6.復職支援のために事業者がやるべきこと
ここでは、復職支援のために事業者がやるべきことを3つ紹介します。
- 職場復帰支援プランを作成する
- 就業上の配慮を行う
- 試し出勤制度を設ける
職場復帰支援プランを作成する
復職にあたっては、休職者の個別の状況に合わせて柔軟に支援できるよう、「職場復帰支援プラン」を作成しましょう。
職場復帰支援プランは、休職者ごとに作成します。記載する項目例は以下の通りです。
- 従業員の氏名、生年月日、所属、従業員番号といった基本情報
- 治療・投薬等の状況
- 勤務時間
- 就業上の措置・治療への配慮等
- 今後の予定・職場復帰日
- 期間ごとの勤務時間や就業上の措置など
- 業務内容
- その他、就業上の配慮事項や面談の実施スケジュールなど
職場復帰支援プランを作成する際は、休業前の就業状態に戻るまで段階的にプランを設定しましょう。また、従業員のプライバシーに配慮した上で、主治医や産業医の意見も踏まえて作成することが重要です。
就業上の配慮を行う
復職時は、業務負担を軽減できるよう、就業上の配慮を行うことが必要です。
具体的には、以下のような措置が考えられます。
- 時短勤務
- フレックスタイム制度の適用
- 残業の禁止
- 出張の制限
復職直後は、負荷がなるべくかからないよう配慮しましょう。段階的に通常の勤務状態に戻していくことで、スムーズな復職が実現します。
また、休職者の状況やストレス要因によっては、異動や業務内容の変更をした方がよい場合もあります。特に、これまで心身に負荷がかかりやすい業務を担当していた場合は、業務内容の変更を検討しましょう。具体的には、マネジメント業務・クレーム対応・運転業務・危険作業・高所作業などが挙げられます。
試し出勤制度を設ける
試し出勤制度を設けることで、復職しても問題なく通勤・勤務ができそうかをチェックするのも効果的です。
制度の例は以下の通りです。
制度 | 内容 |
試し出勤 | 正式に復職する前に、試験的に一定期間継続して出勤してもらい、問題ないかを確認する |
通勤訓練 | 自宅から事業場の近くまで通勤経路と同じルートで移動してもらい、事業場付近で一定時間過ごした後に帰宅する |
模擬出勤 | 勤務時間と同じ時間帯に外で時間を過ごさせたり、デイケアで模擬的な軽作業を行ったりする |
社内制度として上記のような制度を設けることで、休職者の不安を和らげることにつながります。休職者自らが、より早い段階から復職の準備を行えるのもメリットです。
制度を導入する際は、制度実施中の処遇や緊急事態発生時の対応などについてルールを決めておきましょう。
7.産業医の復職判断に関するよくある質問
最後に、産業医の復職判断に関するよくある質問と回答を紹介します。
- Q.産業医が復職を認めない場合、傷病手当はどうなる?
- Q.産業医面談はどのタイミングで行われる?
Q.産業医が復職を認めない場合、傷病手当はどうなる?
産業医が復職を認めない場合でも、事業者が復職を認めた場合は傷病手当は支給されません。
傷病手当を支給するかどうかは、協会けんぽや健康保険組合などの保険者、つまり事業者側が判断します。傷病手当の支給において、産業医の判断はあくまでも意見にすぎないのです。
逆に、産業医が復職を認めたものの事業者が労務不能と判断した場合は、傷病手当の支給対象となります。
Q.産業医面談はどのタイミングで行われる?
休職・復職に関する産業医面談は、休職前・休職期間・復職前の3つのタイミングで実施されます。
休職前は、主治医による診断書や病状を確認するために産業医面談を実施します。
休職期間中も定期的に面談を行い、病状が問題なく回復しているか経過を把握することが必要です。休職者の悩みや不安にも対応します。
そして、休職者から復職の申し出を受けた際も、復職可否を判断するために面談を実施します。
8.まとめ:産業医の意見を参考に慎重に復職を判断しよう
主治医が復職可能と判断しても、産業医が復職を認めないケースがあります。産業医の判断に法的効力はなく、最終的な判断は事業者が行うのがポイントです。しかし、事業場について理解している産業医の意見は非常に参考になるでしょう。主治医だけでなく産業医の意見も参考に、復職判断を慎重に行う必要があります。
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