専属産業医とは?嘱託との違いや設置基準・選任時の注意点を解説
常時労働者が1,000人を超える事業場では、専属産業医を選任しなければなりません。事業場の規模によって選任すべき産業医は異なります。しかしながら、専属産業医の設置基準や、嘱託産業医との違いが分からない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、専属産業医の概要や嘱託産業医との違いを解説します。専属産業医を選任する時の注意点や探し方もお伝えするので、自社にマッチした産業医を見つけたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.専属産業医とは?
産業医は事業場において労働者の健康管理を行う医師のことですが、専属産業医とは、企業と契約し、従業員のように常駐して働きます。複数の事業場を掛け持ちせず、特定の事業場専属で勤務することが特徴的です。
まずは専属産業医について、以下2つの項目を解説します。
- 設置基準
- 業務内容
設置基準
専属産業医の選任が義務付けられているのは、従業員数が常時1,000人以上の事業場または従業員数が常時500人以上の有害物質等を扱う事業場です。この場合、専属産業医を1名以上選任する必要があります。また、従業員数が常時3,000人以上の事業場は、産業医を2名以上選任するよう定められています。
なお、従業員500人以上で専属産業医を選任しなければならない事業場の有害業務の内容は、以下の通りです。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
業務内容
産業医は、従業員が健康かつ安全に働けるよう、専門的な立場から従業員や事業者の支援を行います。健康障害の予防や心身の健康保持・増進など、産業医の職務は多岐にわたります。主な業務内容は、以下の通りです。
- 健康診断の実施と結果に基づく措置
- 長時間労働者に対する面接指導と結果に基づく措置
- ストレスチェックの実施
- 高ストレス者への面接指導と結果に基づく措置
- 作業環境の維持管理
- 労働者の健康管理
- 健康教育や健康相談、健康保持増進のための措置
- 衛生教育
- 労働者の健康障害の原因調査と再発防止のための措置
上記に加えて月に1回の職場巡視を行い、作業方法や衛生状態に有害のリスクがある場合は、直ちに必要な措置を講じなければなりません。
職場巡視について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
なお、専属・嘱託で産業医の業務に違いはありませんが、専属産業医は事業場で勤務する時間が長く、より従業員や会社との接点が多いです。そのため、期待される業務も多くなる傾向があります。
2.専属産業医と嘱託産業医の違い
専属産業医と嘱託産業医の違いは、主に事業場の規模(労働者数)や勤務形態にあります。
それぞれの違いを解説します。
事業場の規模の違い
常時50人以上の労働者を使用する事業場において、事業者は産業医を選任しなければなりませんが、事業場の規模や業務内容によって、専属産業医と嘱託産業医のどちらを選任する必要があるのかが変わってきます。
前述した通り、専属産業医は、従業員規模が常時1,000人以上の事業場または500人以上の有害物質等を扱う事業場で、選任が義務付けられています。
一方で嘱託産業医は、常時50人以上〜999人の従業員の事業場で1名以上を選任することが認められています。(専属産業医でも可)
事業場の規模(常駐する労働者数) | 産業医の人数 |
常時50人未満 | 産業医の選任は努力義務 |
常時50人以上999人 | 嘱託産業医または専属産業医1名以上 |
常時1,000人以上〜3,000人 | 専属産業医1名以上 |
常時3,001人以上 | 専属産業医2名以上 |
常時500人以上・有害業務を扱う事業場 | 専属産業医1名以上 |
勤務形態の違い
専属産業医と嘱託産業医では、勤務形態に違いがあります。専属産業医は原則、常勤として企業と雇用形態を結びます。正社員として雇用するケースもあり、業務委託の場合でも、1年を目安に契約を自動更新されることが一般的です。
専属産業医は目安として週3~5日ほど勤務し、従業員の健康・安全管理に努めます。基本的には1つの事業場で勤務し、複数の事業場は掛け持ちしない場合がほとんどです。
一方で嘱託産業医は非常勤であり、開業医や勤務医として働きながら企業の産業医を兼任するケースが多数となります。正社員として雇用することは稀で、多くは業務委託契約となるでしょう。複数の事業場を掛け持ちしたり、病院などで勤務したりするため、勤務日数は専属産業医より少なくなります。
専属産業医 | 嘱託産業医 | |
雇用形態 | 常勤 | 非常勤 |
勤務日数 | 週3〜5日 | 月1回〜数回 |
働き方 | 専属 | 兼任 |
報酬額の違い
専属産業医は事業場に常勤するため、嘱託産業医に比べて相対的に報酬が高くなります。雇用にあたっては、民間企業の勤務医と同水準の費用を想定しておきましょう。一方、嘱託産業医は専属産業医より費用は抑えられますが、任せる業務の内容や勤務日数によって報酬額に差が生まれます。
3.専属産業医を選任するときのポイント
専属産業医を選任する際、次の3つのポイントを押さえておく必要があります。
- 求める産業医像を明確にしておく
- 産業医のスキルや得意分野を確認する
- 自社にフィットする人柄や雰囲気か確認する
それぞれ解説します。
求める産業医像を明確にしておく
まずは、求める産業医像を明確にしておくことが大切です。事業場の業務内容や特徴、ニーズによって、産業医に求める役割は異なります。
例えば、女性の従業員が多い企業では、女性特有の病気やキャリア相談ができる産業医が必要になることが考えられます。自社に適した産業医像を明確にしておけば、求める人材の選任がスムーズとなるでしょう。
産業医のスキルや得意分野を確認する
求める産業医像を明確にした上で、産業医のスキルや得意分野、これまでの経験などを確認するとよいでしょう。
例えば、高ストレス者が多い事業所やメンタルヘルスに関する困りごとが多い事業場の場合、メンタルヘルスに関する高い専門性や知識を持つ産業医が必要とされるでしょう。
自社にフィットする人柄や雰囲気か確認する
専属産業医を選任するにあたっては、人柄や性格、コミュニケーション力などを考慮することも大切です。
産業医は、従業員が信頼して健康上の悩みを相談しやすい人であることが望ましいでしょう。高圧的な態度や、従業員の悩みに耳を傾けてくれない産業医などは、スキルや知識があっても本来の役割を果たせません。
また、産業医は必要に応じて安全衛生委員会に参加したり、従業員の上司や労務担当とコミュニケーションを取ったりすることも求められます。事業者側とスムーズにコミュニケーションを取り、的確なアドバイスをしてくれることも重要です。
産業医を選任する場合は、事前に面談をして、従業員に質の高いケアを提供できる人間性を持ち合わせているか確認しましょう。
4.専属産業医を探す4つの方法
専属産業医を探す手段には、次の4つの方法があります。
- 医師会に相談する
- 医療機関に相談する
- 健診機関に相談する
- 産業医の紹介サービスを活用する
それぞれ解説します。
医師会に相談する
まず1つ目は、医師会に相談し、産業医を紹介してもらう方法です。
医師会は全国それぞれの都道府県にあり、所属している地域の医師が登録しています。そのため、事業場近隣の産業医を見つけやすいでしょう。
ただし、医師会は紹介のみ行うため、実際の業務依頼や待遇などの交渉は事業場の対応が必要です。
医療機関に相談する
2つ目は、医療機関に相談し、産業医を紹介してもらう方法です。
医療機関に産業医がいれば、すぐに選任できる可能性が高くなるでしょう。また、院内に知り合いがいれば、事業場の規模や業種を理解した上で、産業医を紹介してくれるケースも考えられます。
健診機関に相談する
3つ目は、健診機関に相談して、産業医を紹介してもらう方法です。
ただし、健診機関では嘱託産業医の場合が多く、専業産業医としては契約できないことが考えられます。
産業医の紹介サービスを活用する
4つ目は、産業医の紹介サービスを活用する方法です。産業医の紹介サービスは、事業場の特色やニーズに合わせて、適任者を紹介してくれるサービスです。
近隣の産業医が見つからない場合や、探す手間をかけられない場合などに活用してみるのも1つの手段だと言えるでしょう。
上記、いずれの方法においても、専属産業医の選任については時間がかかる場合がありますので、専属産業医選任の可能性が出てきた際には早めに相談するなどの対応をお勧めします。
5.まとめ:専属産業医は自社のニーズや規模に合わせて選任しよう
事業場の規模や有害業務の有無によって、専属産業医や嘱託産業医の選任が義務付けられています。嘱託産業医との違いを理解し、自社のニーズに合った知識やスキルを有しているか、人間性も見極め、専属産業医を選任することが大切です。
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