産業医による職場巡視の目的と頻度・基本的な流れを解説
職場巡視は産業医の重要な役割の1つで、従業員の安全と健康を守るために定期的に行わなければなりません。
この記事では、産業医による職場巡視の目的や頻度、基本的な流れを解説します。職場巡視に必要な報告書などの例も紹介するので、具体的な手順を知り、従業員と会社を守るために、ぜひ参考にしてください。
目次
- 産業医の職場巡視は従業員の安全と健康を守るための義務
- 産業医の職場巡視の目的
- 産業医の職場巡視の頻度
- 産業医の職場巡視の流れ5ステップ
- 産業医の職場巡視をしていない場合の罰則
- 産業医の職場巡視を行い安全で快適な職場づくりをしよう
1.産業医の職場巡視は従業員の安全と健康を守るための義務
産業医による職場巡視とは、作業場などを巡視し、作業方法または衛生状態が労働者に有害な影響を与える恐れがないか確認することであり、労働安全衛生規則第15条において、以下のように定められています。
産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。 |
引用:労働安全衛生規則第15条
2.産業医の職場巡視の目的
産業医による職場巡視の目的は、専門的な立場から労働環境における安全衛生上の課題を特定し、それを改善することで業務関連の事故や病気の発生を防止することです。
産業医にとっては、業務内容や取り組み、職場の雰囲気を知ることにより、職場や従業員への理解が深まり、より適切な判断やサポートへと繋がりますし、従業員にとっても、産業医を知る一つのきっかけとなり、産業医を活用しやすくなるなどの様々な側面があります。
3.産業医の職場巡視の頻度
産業医の職場巡視は月に1回以上行うことが定められています。ただし、2017年の労働安全衛生規則の改正によって、2ヶ月に1回以上にできるようになりました。(労働安全衛生規則第15条)
近年、過重労働による健康障害の防止やメンタルヘルス対策等が重要な課題となっており、効率的かつ効果的な産業医の職務の実施が求められています。産業医の職場巡視とそれ以外の手段を組み合わせ、情報を収集し対策を講じることも有効と考えられたことから、法改正が行われました。
産業医の職場巡視が2ヶ月に1回になる2つの条件
産業医の職場巡視を2ヶ月に1回にするためには、以下2つの条件を満たす必要があります。
- 産業医に所定の情報を毎月提供する
- 事業者の同意を得る
詳しく解説します。
産業医に所定の情報を毎月提供する
所定の情報とは、以下の1~3です。
1.衛生管理者が少なくとも毎週1回行う作業場等の巡視の結果
- 巡視を行った衛生管理者の氏名、巡視の日時、巡視した場所
- 巡視を行った衛生管理者が「設備、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるとき」と判断した場合の有害事項および講じた措置内容
- その他、労働衛生対策の推進にとって参考となる事項
2.1のほか、衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの(例)
- 長時間労働をしている労働者の氏名と労働時間数
- 新規に使用される予定の化学物質・設備名、これらに係る作業条件・業務内容
- 労働者の休業状況
3.長時間労働者に関する情報
- 休憩時間を除き、1週間あたり40時間以上働き、その超えた時間が1か月あたり100時間を超えた労働者の氏名と超えた時間に関する情報
職場巡視の頻度を2ヶ月に1回にしない場合でも、事業者は産業医に対し、上記1と2の情報提供が望まれます。
事業者の同意を得る
産業医の意見に基づき衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、事業者の同意を得ることが必要です。
衛生委員会における調査審議は、職場巡視の頻度を2ヶ月に1回に変更する一定の期間を定め、その期間ごとに産業医の意見に基づいて行います。
例えば、4〜9月の6ヶ月間は職場巡視の頻度を2ヶ月に1回にすると決まった場合、10月の衛生委員会で、巡視の頻度が2ヶ月に1回のままで問題ないかを話し合います。
4.産業医の職場巡視の流れ5ステップ
職場巡視を実施する際の基本的な流れは、以下の5ステップです。
- 職場巡視計画を作成する
- 職場巡視の事前準備をする
- 職場巡視を実施する
- 職場巡視報告書を作成する
- 職場巡視の結果を報告し対策を講じる
産業医の職場巡視は、ただ実施するだけでは意味がありません。PDCAサイクルを回し、改善を繰り返していくことが重要です。
1つずつ解説します。
1.職場巡視計画を作成する
年間の職場巡視計画を立案し、衛生委員会で計画内容を審議・作成しておくことで、実際の職場巡視が効果的でスムーズに行うことができます。
また、職場の状況などをふまえて、特に重点的に巡視する箇所を計画に盛り込んだり、臨時(リスク低減対策の確認時、新規作業開始時など)の職場巡視計画の策定などを検討することが大切です。
2.職場巡視の事前準備をする
確実でスムーズな職場巡視のためには、事前の準備が必要です。
産業医が業種の特徴や業務内容、職場の環境など巡視対象の職場を理解し、確認すべきポイントを事前に整理しておくことで、効果的な職場巡視を行うことができます。そのためには、巡視の同行者から事前に話をきいたり、確認表などで情報を整理しておくことが必要です。また、確認ポイントをまとめたチェックリストを準備しておくと、より分かりやすくスムーズな職場巡視を実施することができます。
チェックリストの内容は、業種だけでなく時期によって異なります。労働者の健康を損なうリスクを早期発見するための重点ポイントはどのようなところか、産業医や衛生管理者が共有し合い、チェックリストの作成と適宜更新をするとよいでしょう。
以下は、確認表のサンプルです。
引用元:職場巡視のポイント
加えて、産業医の勤務日に合わせて職場巡視のメンバーと日程調整を行います。職場巡視は月に1回もしくは2ヶ月に1回の開催なので、可能な限り衛生管理者、衛生委員、現場責任者などが同行できるよう調整するのが望ましいでしょう。
これらの、職場環境について理解している人が同行すれば、巡視のタイミングで職場環境の課題や改善点情報も共有できるでしょう。
3.職場巡視を実施する
巡視当日は、事前に準備した職場の情報やチェックリスト、同行者からの作業工程や内容など様々な情報を基に、産業医は職場環境や作業方法などを確認します。すぐに改善が見込まれそうな場合は、その場で直接対象部署にフィードバックし改善されることもあります。
巡視に際しては、作業着や必要な保護具などを適切に使用し、安全を確保しながら行うことも大切です。
4.職場巡視報告書を作成する
産業医は巡視の結果を報告書に記載し、事業場に提出します。職場巡視報告書は産業医、衛生管理者、事業者も含めて、内容を確実に確認し、共有しましょう。
報告書には、改善が必要な箇所について、誰が、いつまでに、どのような改善方法を行うのか(行ったのか)記載するようにしましょう。
以下は、職場巡視報告書のサンプルです。
引用元:職場巡視のポイント
5.職場巡視の結果を報告し対策を講じる
産業医は職場巡視報告書を元に、結果を安全衛生委員会で報告します。また、職場からは指摘箇所に関する対応状況や改善報告がなされます。
問題点が大きく、対象部署だけでは対応ができない場合や、対策後もリスクが残る場合は、今後の対策や対応計画などを衛生委員会で審議することも大切です。
5.産業医の職場巡視をしていない場合の罰則
産業医による職場巡視は、労働安全衛生規則第15条で定められています。そのため、職場巡視をしていない場合、50万円以下の罰金などの罰則を科せられる可能性があります。(労働安全衛生法第120条)
また、適切な職場巡視を行わず労働災害が発生した場合、事業主は「安全配慮義務」を怠ったとするケースもあるため、注意が必要です。職場巡視をしていないと、事業主、産業医ともに責任が問われることがあるため、適切に実施することが大切です。
6.産業医の職場巡視を行い安全で快適な職場づくりをしよう
産業医の職場巡視は、労働環境における安全衛生上の課題を特定・改善し、従業員を守るために行われます。条件を満たすことで、2ヶ月に1回以上の頻度に変更可能です。
職場巡視はただ実施するだけではなく、安全で快適な職場づくりに向けてPDCAサイクルを回していくことが大切です。
社員の健康を守るためには、産業医が欠かせません。多くの産業医の中から自社にマッチする産業医を選ぶには、コーディネーターからアドバイスを受けながら利用できる、産業医選任サービスが役に立つでしょう。
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