産業医とは?設置基準や要件・仕事内容・選任方法について解説
産業医とは、労働者の健康管理や労働災害予防などを専門に行う医師のことです。「産業医とはどんな仕事をするのか分からない」「どうやって探せばいいのか分からない」という方は多いのではないでしょうか。
この記事では、産業医の要件や設置基準、仕事内容と役割・選任方法について解説します。産業医について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 産業医とは
- 産業医の要件とは?資格は必要?
- 産業医の設置基準と選任形態について
- 産業医の業務内容と役割
- 産業医がいない場合の選任方法と注意
- 産業医と契約する上で知っておきたいこと
- まとめ:産業医について理解し契約を進めよう
1.産業医とは
産業医とは、事業場において労働者が健康で安全に働けるように、専門的な立場から労働者や事業者の支援を行う医師のことです。
産業医は、労働者の健康診断や相談、労働環境の確認など、健康管理に関するさまざまな業務を担います。労働者の健康への影響や労働環境に問題がある場合、事業者に対して助言・指導・勧告などを行います。
一般的な医師は病院や診療所において患者を対象に病気の診断や治療を行うのに対し、産業医は事業場において労働者を対象に健康に働くための判断や支援を行うため、産業保健や労働衛生に関する専門知識が必要です。
2.産業医の要件とは?資格は必要?
産業医には、全ての医師がなれるわけではありません。医師であることに加え、労働安全衛生規則第14条第2項目に定められている、以下のいずれかの要件を満たしたものから選任します。
- 厚生労働大臣が定める産業医研修の修了者
- 産業医の養成課程を設置している産業医科大その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験(試験区分:保健衛生)に合格したもの
- 大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師、または経験者
厚生労働大臣が定める産業医研修とは、日本医師会や産業医科大学などの所定のカリキュラムのことです。
3.産業医の設置基準と選任形態について
事業者は、労働者が50人以上となる事業場に産業医を選任し、労働者の健康管理などを行わなければなりません。また、事業場の労働者数、業務内容によって、必要な産業医の人数などが異なります。
労働者が50人未満の事業場については産業医を選任する義務はありませんが、従業員の健康を守る観点から、必要な知識を有する医師等に健康管理の全部または一部を行わせるなどの対応をすることが望ましいでしょう。もちろん、産業医を選任することも手段の1つです。
選任する産業医数は、以下の通りです。
事業場の労働者数 | 選任する産業医の数 |
1〜49人 | 選任義務なし |
50〜999人 | 産業医1名以上(嘱託産業医可) ※有害業務に500人以上の労働者を従事させる事業場は、専属産業医の 選任が必要 |
1,000〜3,000人 | 専属産業医1人以上 |
3,001人以上 | 専属産業医2名以上 |
以下、嘱託産業医と専属産業医の違いを詳しく解説します。
嘱託産業医(非常勤)
嘱託産業医は、事業場において非常勤形態で勤務する産業医のことを指し、開業医や勤務医、他事業場の産業医との兼務など様々です。わが国の産業医は、大部分が嘱託産業医です。常時50人以上999人以下の労働者を使用する事業場では、嘱託産業医を1人選任しなければなりません。
ただし、下記の14項目に該当する業務に常時500人以上の労働者が従事する事業場では、専属産業医の選任が必要です。
- 多量の高熱物体を取扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等の塵埃又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- 削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄燐、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄燐、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉塵を発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
専属産業医
専属産業医は、1つの事業場に専属する常勤の産業医のことをいいます。常時1,000人以上の労働者がいる事業場、および先ほど述べた14項目に該当する業務に従事する労働者が常時500人以上いる事業場では、専属産業医の選任が義務付けられています。
労働安全衛生規則によって、法人の代表者などを産業医として選任することは禁止されています。法人の代表者または事業経営主などがその事業所の産業医を兼務している場合、産業医としての職務が適切に遂行されない恐れがあり、早期に改善するのが望ましいでしょう。
4. 産業医の業務内容と役割
この章では、産業医の業務内容について解説します。
労働者の健康診断と事後措置
産業医の重要な業務として挙げられるのは、労働者の健康診断です。労働者は、毎年1回以上、健康診断を受ける必要があります。産業医は、健康診断結果より労働者の健康状態を把握し、継続して就労できるかを判断します。
健康に問題がある場合、労働者との面談等を実施し、必要に応じて就労の制限や休職などの措置についての意見を事業者へ伝えます。
長時間労働者の面談
ひと月の労働時間が基準を超えた労働者に対して、産業医は面談を行います。長時間労働は、脳や心臓疾患、精神疾患のリスクになるとされ、労災認定の要件に含まれています。
近年、過重労働による健康障害防止やメンタルヘルス対策などの重要性が増し、2019年働き方改革関連法によって、長時間労働者に対する面接指導などが強化されました。
産業医の面接指導の対象となる労働者は、以下の通りです。
- 時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者(申出)
- 時間外・休日労働が月100時間を超える研究開発業務従事者
- 健康管理時間が月100時間を超える高度プロフェッショナル制度適用者
産業医は面談にて、労働者の勤務状況や疲労蓄積の状況などを確認し、健康リスクがあると判断した場合には就労の制限や休職などの措置を講じるよう、事業者へ意見を伝えます。また、労働者に対して健康状態を改善するためのアドバイス等も行います。
労働者のストレスチェックとフォロー
産業医は、ストレスチェックを担うことがあります。ストレスチェックとは、労働者のストレス状態を把握するための検査のことで、職場でのメンタルヘルス対策として、ストレスチェック制度が定められています。
ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者には、産業医による面談が行われます。労働者へのストレス状態の説明や改善方法のアドバイス、面談結果によっては、就労の制限等の措置についての意見を事業者へ伝えます。
事業場の巡視
産業医は、少なくとも月に1回以上、事業場の巡視を行わなければなりません。作業方法や衛生状態に有害の恐れがある場合、労働者の健康を保持するために改善すべき点について指導し、直ちに労働者の健康障害を防止するための措置を講じなければならないとされています。
職場巡視の目的は、会社で働くことによる労働者の危険や健康被害を未然に防ぐことです。労働環境や働いている労働者の様子を確認するだけでなく、労働者や管理者とのコミュニケーションの機会にもなり、産業医の職場理解にもつながります。
休職中の労働者の復職判断
産業医は、病気や怪我等で休職している労働者の復職判断を行います。労働者との面談や主治医からの意見をもとに、労働者が復職できる状態にあるか、就労の制限は必要かなどを判断します。また、関係者と協力して復職のための支援を検討し、復職後も継続して支援を行います。
安全衛生委員会の参加
安全委員会・衛生委員会は、労働安全衛生法に基づき、常時雇用している労働者数が50名以上の事業場で設置が義務付けられており、産業医はその構成メンバーです。
専門的な立場から、労働者の健康の保持増進、労働災害の原因および再発防止についての助言や健康講話の実施など衛生教育の部分でも役割を担います。
5. 産業医がいない場合の選任方法と注意
産業医の選任を考える方に向けて、選任方法と注意点を解説します。
産業医の選任方法は?紹介や派遣の受け方
産業医がいない場合、以下5つの選任方法が挙げられます。
- 健康診断を実施している機関に相談する
- 地域の医師会に相談する
- 親会社に相談する
- 人脈を活用して紹介してもらう
- 産業医の紹介サービスを活用する
まずは、近隣の健康診断を実施している機関や地域の医師会に相談すれば、産業医を紹介してもらえる可能性があります。また、親会社に産業医がいる場合、産業医に選任できることもあるでしょう。さらに、経営者などの知り合いがいれば、人脈を活用して紹介してもらう方法もあります。
どの方法も、自社で一から探さなければならなかったり、紹介してもらった産業医の候補が限られたりするため、注意が必要です。なるべく手間をかけずに効率的に産業医を選任したい場合は、産業医の紹介サービスを活用するのも1つの手です。
産業医を選ぶときの注意点
産業医を選任する際の注意点を解説します。
選任の目的を明確にする
産業医を選任する際、まずは自社が産業医に対し、何を期待するのか明確にしておく必要があります。事業場のニーズとして、例えば以下のような例が挙げられるでしょう。
- メンタルヘルス対策
- 長時間労働者に対する面接
- 持病と仕事の両立支援 など
上記のように、各事業場で産業医に求める役割は多岐にわたります。そのため、まずは自社に必要な産業医を明確にし、選任することが大切です。
時間の制約がないか確認する
産業医を選任する際は、時間の制約がないか確認することが重要です。例えば、嘱託産業医を選任する場合、医療機関や他事業場での勤務のため事業主が求めるタイミングでの、職場巡視や安全衛生委員会の参加が難しい場合があります。
労働基準監督署に届け出をするための名義貸しや、一度も事業所を訪問しない名ばかり産業医とならないよう、産業医に必要な業務を行ってもらうことが重要です。
活用できる助成金を確認する
産業医を選任する際には、政府や自治体の補助金を利用できるケースがあります。例えば「団体経由産業保健活動推進助成金」では、事業主が傘下の中小企業に対して、ストレスチェックの実施や職場環境の改善を目的に産業医と契約した場合に、活動費用の80%(上限100万円)を助成します。
「団体経由産業保健活動推進助成金」は、中小企業などが産業医・保健師などと契約を結び、産業保健サービスを提供した際の費用の一部を助成してもらえます。
産業医を選任し、産業保健活動を行う際は活用すると良いでしょう。
6.産業医と契約する上で知っておきたいこと
産業医と契約する際の注意点を解説します。
産業医の相場はどのくらい?
産業医と契約する際の相場は、1事業場あたり月数万円程度です。産業医や利用するサービスによって費用、出勤する日数に応じて費用が異なります。
また、サービスやプランによって支援内容が異なります。支援内容について把握したうえで選任することが重要です。
産業医の契約期間は?更新はどのように行う?
専属産業医の場合、契約期間は数年で自動更新されることが一般的です。嘱託産業医の場合は有期雇用となり、数ヶ月~数年の契約となります。
7.まとめ:産業医について理解し契約を進めよう
産業医は、一般の医師と違い、事業場において労働者の安全や健康管理に関する業務を行います。DX化や労働人口減少など労働環境の変化による労働者への負担増加が懸念されており、より一層、労働者の健康管理や職場環境の管理、労働時間の確認などは必要不可欠だといえるでしょう。
さんぎょうい株式会社では、700名以上の登録産業医から、業種業界の傾向や企業様毎の課題、企業風土などの背景を踏まえ、最適な産業医をご提案します。
また、選任するコーディネーターが産業保健体制の構築・運用に伴走するため、「産業医とのコミュニケーションが適切に取れるか不安」、「何から手をつけて良いか分からない」、といった場合も安心です。産業医の選任をお考えの場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。